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Black Market~闇の魔術師~ 02 神子

胸を上下させ、額に光る汗を拭うフード人間。


フードの両側をきっちり押さえている為、顔ははっきり見えない。


引っ張られて走る事三十分。


ディズは疲れた素振りも無しで、やれやれと頭を振るだけだった。



ちらりと前を見る。



自分を問題事に巻き込んだ犯人は、華奢な体で、いかにも体力が無さそうに思え
た。



しかし。



実際、あれだけひたすら走っていたのを考えると、並の人間より余程の体力があ
るとも解釈出来た。



「ふぅ~。すみませんでした・・」



一息吐いて、詫びるフード人間。



「謝るんならするなっての。何やらかしたんだよ?万引きか?食い逃げ?あ、そ
れとも」



「違いますよ!!そんな野蛮な神への冒涜は絶対しませんっ!!」



ディズの言葉を半ば遮り、フード人間はバサッとマントを払った。



輝く金髪、色白の肌に大きな緑の瞳。



その顔立ちはまさに美少女で、きめ細かな肌は、触れれば崩れてしまいそうだ。



数回目をしばたかせ、ディズはまた一つ溜め息を吐いた。



「何だってお前みたいなか弱そうな女が俺をさらうかなぁ?」



「あ、人聞きが悪いです。さらったんじゃなくてお迎えして差し上げたんですよ
!」



聞き咎めたのか、ずいっと金髪少女は顔を寄せて来た。



「はぁ?お迎え?」



「そうです。貴方が迎えに来てくれる神官様ですよね!」




ニコッと笑う少女。



同時に後ずさるディズ。



「神官?俺は違うぜ。人違いだ」



早々に分かれたくてサッと返答する。



「え・・」




「神官じゃないっての」


「え・・でも、黒い服に黒い瞳って・・」


「髪の色までちゃんと確認したのか?」


ひっ、と口元を引きつらせ、その少女は急に顔色を変えた。


「か、髪の色までは確認しませんでしたっ」


青ざめている。


慌てだした少女は座り込んで頭を抱えた。


「ボク、用事があって隣国まで行きたいんです。で、その護衛をしてくれる人と


待ち合わせていたんですが・・人違いだったなんてー!!」


「待ち合わせしてて何で追われてるんだよ?」


「それはボクが・・!・・・いけない、また気付かれました!」


少女の瞳が険しくなる。


周囲に十以上の人の気配。


囲まれた、らしい。


姿は見えない。


だが気配はする。


「レイ!!」

複数の声がしたかと思うと空から光の矢が降り注いだ。



シュッ!


ガガガガガガガガッ・・!!


素早い音が耳を掠め、辺りの地面を抉った。


「光属性の術か・・・!」


咄嗟に脇へ飛んで矢を避けたディズ。


そして左手に意識を集中させ、ニヤリと笑った。


「最近、あんまり運動して無かったから丁度いい、相手してやるよ」


彼の掌に闇色の気が集まっていく。


そしてそれは一つの黒い球体を生み出した。


「待って!!!!!」


技を放とうとした途端、いきなり少女がディズに抱きつき、ディズの身体が僅かに傾いだ。



「何すんだよ・・、このままじゃやられるだろ?」


はあ、と溜め息を吐く。


少女はふるふると首を横に振り、抱きしめる腕の力を緩めない。


ディズに攻撃はさせない、そう言っているようだ。


「貴方は力を使ってはいけない・・・。ここで力を使っては・・・」


「使わなきゃ俺は意味も分からず殺されるんだぞ?」


「貴方は闇の魔術師。教会を敵に回しかねない。それだけは・・・!」


少女は顔を上げて真摯に訴えかけてくる。


「ライトブラストッ!!」


そうこうしているうちに敵側の第二攻撃が開始され、上空から光の球体が降ってくる。



「どけって!!」


自分はともかく、このシスターまで被害に遭えば後々面倒だ。


少女を押しやろうとディズが腕を伸ばしかけたその時・・!


「・・・・お願いです、天の父よ・・。私達に加護を・・御救いを・・・」


少女が首元のチョーカーについている十字架に右手の指先で触れてから、呟いた。


チョーカーが光を発し、少女の身体を包みだす。



その光は段々強くなり、ディズをも包み込んだ。


「!これは・・・光属性の術・・・?」


バシン!!!!!!!


敵の放った術が少女の放った光によって弾かれた。


相殺し、少女とディズの身体を包む光も消える。


「お前、只のシスターじゃなく、魔術師だったのか?」


「・・う~ん、そうですね!あはは、バレちゃいましたけど♪」


笑って答える少女。


「さて。これ以上貴方に迷惑をかける訳にもいかないので・・もしもーーーーーーーし!!
皆さん、姿を現してくださーーーーーーーーーい!!!」


いきなりの大声にぎょっとするディズ。


少女が声をかけた向こう側の茂みから10以上の人間が姿を現した。



皆、神官の服を着用している。


「いきなり攻撃とは平和的な神官のする事じゃあないよな」


視線でねめつけるも、相手の神官達に悪びれた様子はない。


「お前、神子を攫って何をしようとした?」


神官の一人が前に進み出た。


その目は明らかに敵意に満ちている。


「攫う?神子?」


「とぼけるな!!お前は自分の野心の為に攫ったんだな!!」


「いや、攫われたのはこっちだって」


このシスターが自分をここまで連れて来たのだから、誘拐犯は自分ではない。


だが相手は聞く耳を持たない。


「神子は神からの信託を受けた尊い存在。お前如き輩が近付く事さえ許されない!」


犬のように食ってかかってくる。


「あー・・・うるせー・・」


耳を両手で塞ぎながら目を閉じるディズを見て、シスターはクスッと笑った。


「違いますよ、皆さん!この方とは旧知の仲で、ちょっとここまで散歩しにきただけです」



今度はシスターが前に進み出た。


このシスターが、あの「神子」?


内心、ディズはかなりの驚きで僅かに動揺していた。


神子といえばもっと、しとやかで落ち着いていて・・少なくともこんな子供ではない、そんなイメージを抱いていたからだ。


教会側が「神子」を崇拝する余り、多少実際とは異なる人物像を語っていたことは大いに考えられるのだが・・。


まさかこんなにも幼い・・・自分よりも年下に見える程の娘が神子だったとは。


「まあ・・神の「子」だもんな、子供でもおかしくないもんな」


ぼそっと呟いたのが神官達には聞こえてしまったらしい。


「やはり無礼な奴!!!神子様!!本当にご友人なのですか?!!」


「はい!お友達というか、彼氏なんですよv」


「は?!!」


この発言に神官達もディズも目を丸くした。


シスターは俗世と離れた存在。


恋愛とは無縁といっていい。


それなのに「彼氏」だなんてシスターにあるまじき言葉をさらりとこの神子は言ったのだ。


「誰がお前の彼氏だよ・・」


「神子様に「お前」と呼ぶとは・・!!・・・・しかし、神子様、ご冗談はおよしになって下さいませ。神子様は・・・」


オロオロしている神官達を面白がっているシスターこと「神子」はまたもディズに近付いた。



「そうですね。冗談、言いすぎちゃいましたかvま、ボクは男、ですもんね~、あははv」



「?!!」


神官達はやれやれという感じで頭を抱えているが、ディズはそれだけでは済まされなかった。



またも驚きの事実を知り、流石に眉を上げた。


「お・・っ」


男?!!男?!!男がシスター?!!


何処をどう見ても少女にしか見えないのだが・・・。


・・・・と、言う事は自分もまだまだ人を見る目がないのかもしれない。


ディズはこんな厄介な「少年」と知り合ってしまった事を今になって後悔した。


「ボクは、ディヴァイ・グレイス。正真正銘の男、ですよ♪貴方は分かっていましたよね?
旧知の仲の友人さんvv」


神子ディヴァイが振り返って笑いかけた。


目眩を起こしそうになるのをディズは必死に堪えたのであった・・・。

※03へと続く※
# by sasyasya2007 | 2007-01-11 01:02 | Black Market~闇の魔術師~
Black Market~闇の魔術師~ 01 邂逅

「だーかーらっ!」


人差し指を横に振りながら、少年は目の前に居る少女を見据えた。


「んな弱々しい心意気で祈ってても意味ねーっての!」


「は、は、はい」


「祈るなら・・こう!!」


少女が萎縮している事等お構いなしで、少年は教壇へと進み出た。


そのまま片足を教壇の上に乗せ、ビシッと人差し指を突き付ける。


その先にあるのは・・大きな十字架が金糸で縫われた飾り幕。


教会の象徴。


「おい神様!聞いてるんならちゃーんと願いを叶えてくれよ?俺は今、街一番の

洋菓子屋のコーヒープリンが食べたい!持ってきてくれ」


威勢良く言い切り、フンと鼻を鳴らす。


「祈りってのはこんなもんでいいんだよ」


「は、はぁ・・」


呆気にとられたまま少女は頷き返した。


「気弱なまんまじゃ神様とは会話出来ないぜ?」


「あ、あの・・貴方は一体・・?」


朝早くに黙祷をしている少女・・教会のシスターのヘレンの前にいきなり現れた
少年。


黒髪に黒服、黒靴。


やや乱暴な言葉遣い。


気さくで明るくて確かに話しやすいのだが・・。


ヘレンは得も言われぬ相手の少年の印象に内心戸惑っていた。


黒ずくめの服装を除けばこんなにも親しみ易い人柄であるのに。



何故、近寄りがたいと思うのだろう?



深い深い闇が彼を取り巻いている様な気さえする。


この感じは一体・・。


「また神への冒涜をしているのですか!ディザイア!!」


考えに耽るヘレンの耳に突然の怒号が響いた。


驚いて振り返る。


「あ・・神父様」


怒りながら歩いて来るは神父であった。


「全く、何度言ったら分かるのです?!神聖なる神様の御前にそんなに近付いて

指を突き付けているとは・・!今日も午後一番に説教をしてあげましょう。貴方

だけ特別に」


真っ白な司祭服を翻し、神父・・アルカインはディザイアを睨んだ。


その瞳は笑っていない。


「あー・・久しぶり!アル神父♪」


「アルではなくアルカインです!アルカイン・フレーバー!いい加減覚えなさい
・・はぁ・・」


「ゴメンな、俺忘れんの早いんだよ。んじゃ、眠くなってきたし帰らせて貰うぜ
。またな!」


祭壇の上に置いていた自身の荷物を引っ掴むとディザイアことディズは出口へと
駆け出した。


「待ちなさい!今日は国王の誕生祭ですよ!説教を欠く等、神がお許しなさって
も私が許しません!」


早歩きでディズを追うアルカイン。


「俺自身が許すから問題ねーって!な?」


いつもの調子で軽く笑いながら走るディズ。


そんな二人の様子にクスクス笑い、ヘレンは飾り幕の端をそっと捲った。


その下から神々しく輝くステンドグラスが現れた。


聖母マリアが御子イエスを抱いている絵がグラスに鮮やかに刻み込まれている。


「神様・・どうか、今日も皆に安らかなる時をお与え下さい・・」


小さな声で呟き、ヘレンは胸の前で両手を組んだ。








「相変わらずアル神父は面白いなぁ。よくまぁいつも追っ掛けて来るもんだ」


息一つ乱さぬディズは、遥か後方で疲れ切って座り込んでいる神父を見やった。


「さて、そろそろ城門に・・」


闇の魔王サタンとの契約の翌日。


ディズは早速、魔王に捧げる女性を捜し始める事にした。


軽く情報を集めようと契約後に直ぐ様酒場に向かったのだが。


「あー・・嫌だけど仕方ない、か」


酒場のマスターいわく、この国一番の美女は王女だという。


憎い国王には三人の子が居て、二人は息子、一人は娘だそうだ。


滅多にお目にかからないものだから、どんな顔かをディズは知らなかった。


祝事や何か催し事があっても絶対城には行かず、家か別の場所に足を運んでいた

からだった。


「じゃマスター、また会おうぜ」


「ああ。また来いよ、ディズ」


ひらりと身を翻し酒場を出たディズは、街の広場へと足を向けた。


今日は平日。通りを歩く人は少ない。


男は出稼ぎで各々仕事場へと出かけている為、今この大通りを歩くのは女性や子供ばかりだ。


土日になればこの通りも市場と人の賑わいで五月蝿くなる。


その賑やかさがディズは好きだった。


歩きながら左右の露店を眺めやり、人の流れを観察する。


今こうやって周りに居る人々はいつかサタンの力によって消される運命。


王都を潰して欲しいと願った自分のせいで、この罪無き者達は命を落とすのだ。


それは嫌だった。


自分が壊して欲しいのは「王都」・・だけ。


「人々」ではない。


「王」とその周辺の政治を執り行う者達だけ滅べばいい。


その時になったら人々だけは何とかして逃がさねば。


頭の中でぼんやりと考えつつ、正門へと向かう。


正門から一歩外へ出れば、後は異国への道しか無い。 


いよいよ旅の始まりなのだ。



ここはトラウム王国の王都「トライアル」。


商業都市で構成され、機械や家具等の生活用品の生産率、輸出率の高さで名を馳せている。



上下関係に厳しく、王族と平民の間にある壁は厚く、堅い。


前々国王の時までは緑豊かで、階級制度も無く、皆平等で、如何にも平和そのものという


感じだったのだが、前国王の頃から一気に制度が厳しくなったのだった。


今では緑は姿を隠し、代わりに機械生産工場等が所狭しと建てられていた。


世界レフリェーヌには五つの国が存在する。



トラウム、レリーフ、ロアンヌ、エイドラ、ルシファンの五国だ。


それぞれの国に特徴があり、異なる制度や暮らしがあり、信念がある。


全ての国を渡り歩くのは困難な事だが仕方がない。



美女を見つけるまではここには戻らない、そう決めてウィズは正門にさしかかった。



その時だった。


「どいてどいてどいてくださあ~~~~~~~~い!!」


背後から甲高い声が上がり、誰かがこちらへと駆けて来る足音がした。


振り返る。


大通りの真ん中を転がるようにして走ってくるのは茶色のフード付マントを羽織った人物。



顔がフードに隠れていて男か女かは分からない。



何だ何だ?と思っていたのも束の間、その人物はこちらへ突進して来る。


バタバタバタバタバタバタ・・・!!


ぶつかるのはゴメンだ、と避けようとしたのだが。




ぐんッ!!




「え?」


何かに引っ張られた。


身体が引きずられるかの様にして引っ張られている。


気付けば自分の腕をそのフード人間が引っ張って走っていた。


「え?おい、ちょっと」


つい、つられて走っていたが、直ぐに抗議しようと口を開く。


それを遮り、フード人間が一気に話し出した。


「今、危険なんです!!!とにかく何も言わずについてきて下さいっ!!貴方がボクを助けてくれる人だってことは知っています!!だからこうしてちょっと強引ですが、ついてきて貰おうと思っているんです!!

ほら、今の状況だと、分かりますよね?!とにかくこの門を越えて、一度隣国に・・!!」



・・・・・助けてくれる人?


何言ってるんだ?? 俺が??誰を?? 助けるって??


ついてきて貰う?? 隣国に??


「離せって!!おい!!意味わかんねーって!!


ディズの頭が「理解不可能」と喚いている。


「取り合えずこのまま走りますよっ!!」


「おい!!聞いてるのかよ?!!おい!!!」





かくしてディズは、謎のフード人間に拉致られたのであった。

※02へと続く※
# by sasyasya2007 | 2007-01-11 01:01 | Black Market~闇の魔術師~
Black Market~闇の魔術師~ 00

昔。



遠い昔。


人間達の堕落を嘆き、神は二人の遣いを地上に送り込んだ。


一人は天使であるミカエル。


もう一人は悪魔であるサタン。


人間が考えを改め、神への忠誠を抱こうとするならば天使の祝福を。


人間が考えを改めず、神への冒涜を行うとするならば悪魔の裁決を。




結果、人間は一度味わった甘美な堕落の世界を忘れられず、サタンの手によって
裁きを受けた。


大地は焼け、木々は燃え、世界は炎に包まれて無へと帰した。


そしてミカエルとサタンは神の元へと還る筈であった。




だが。



悪魔サタンは天使ミカエルに惹かれ、我が物にし、世界を手に入れようと考えた



ミカエルはサタンの手によって身を汚される前に、その力を以て世界を緑豊かな
楽園へと戻し、自害した。


ミカエルの死に怒った神は、サタンを闇の地獄の果てへと封印し、ミカエルの死
に涙した。



これが、現在まで語り継がれてきた神による世界再生創造記である。


「レフリェーヌ」と呼ばれる世界ではその話こそが、神達の存在を示すものとされ、
人々の間に広まった。


しかし、この話はそこで終わりではない。


暗い地獄の奈落の底で、サタンは待ち続けていた。


いつの日かここから抜け出し、神への復讐を果たしてやろう、と。


自分の力ではここからは逃れられない。


地上と地獄を繋ぐ門を開ける事が出来るのは、神と魔術師と呼ばれる人の子。


異質の力を宿す者しか自分を呼ぶ事は出来ない。


サタンは待った。


封印が解かれるその日まで。


復讐を胸に誓い、待ち続けた。


地獄は暗く、何も見えない、聞こえない。


気がおかしくなるのを耐え、ずっと待った。


それから1000年。


地獄に光が射し込んだ。










「お前が私を呼び出したのか?」



「ああ、そうだよ?俺以外に呼び出そうとするヤツなんて居るのか分からねぇし。



で、サタン・・・早速俺からの命令だ」


目の前には17、8位の少年。


黒い衣装を全身に纏っており、艶やかな黒髪が印象的。



溢れる自信を瞳に宿し、勝ち気そうな笑みを向けている。


「闇」の魔術師には見えない。


この少年の纏うオーラは「闇」でなく「光」に似ているからだ。



けれど自分を呼び出す事が出来たのは、紛れもなく彼が「闇」の人間である事を
示していた。



「・・私を呼んだと言う事は、お前には願いがあると言う事。契約をしたいのだ
な?」



その言葉を聞いた少年が頷いてからにっこりと笑った。



「そりゃもう叶えたい事があるんだよ。契約は交換条件で成立するんだよな?何
を代価にすればいい?」



「魂の半分だ」



「いいぜ。幾らでも持っていけよ」



サラリと答えた少年の口振りは、まるで友人と遊ぶ約束をする時の様。



「ほぅ・・お前はなかなか度胸がある。私が魂の半分を奪えば、寿命も半減する
。それを簡単に承諾とは」



自分の命を捧げる程に叶えたい望みとは何か。




「お前の望みは何だ?言ってみるがいい」



その時の少年の表情に迷いの色は浮かんではいなかった。




「俺の願いはただ一つ。王都をブッ潰して欲しい」



つくづく面白い少年だと思う。



自分の居る王国を消せ、と言うのだ。



サタンは頷いた。



「よかろう。ではこちらの条件も飲んで貰う。・・贄となる女を一人連れて来い




「贄?」



「そう・・贄、だ」



暗い暗い室内で交わされる会話。


普通の人間ならば呼吸をするのさえ鬱陶しいと思うだろう。


「・・・分かった、連れて来れば願いは叶うんだな?」


「ああ、そうだ。但し、ただの女では認めぬ。麗しい、悪魔の王の妻に相応しい女を連れて来るのだ」



「了解。腰を抜かす位の美人を連れて来てやるよ」




契約成立。


こうして少年は願いを叶える為、美しい女性を見つける旅に出る事となった。


※01へと続く※
# by sasyasya2007 | 2007-01-11 00:49 | Black Market~闇の魔術師~
証 (紫苑様より:鋼の錬金術師ロイ×エド)

暗くなった指令室内。



満月から放たれる光は、明かりを灯さずとも室内を明るく照らしている。



その中で、ロイはあと少しとなった書類に目を通していた。



仮眠をとってきますと言ってリザが部屋を出て行ったのはほんの数分前のこと。



珍しくちゃんと仕事をしたからか、山積みだった書類はいつもより早く片付きそうだった。







「はぁ」







かさり。



ため息に飛ばされた書類が床に落ちる。



それを拾おうとロイが面倒くさそうに手を伸ばす。



そのとき、軋む音と共にドアが開かれた。



ロイは書類を手に掛け、ドアのところに佇む人影を睨みつけた。







「中尉?」







言ってから、いや、と心の中で否定した。



リザにしては小柄すぎるその影は、一歩一歩ロイのいる机へと歩み寄ってくる。







「…鋼の」







月光によって晒し出されたのは、エドワードだった。



いつものように黒い上下に赤いコートを身に付けている。



握りしめた両手は強張っていたが、俯いているせいで表情を見ることは出来なかった。







「よう…大佐…」







声をかけながらもエドワードは視線をあわせようとしない。



いつもはジト目で見てくる瞳も今は伏せられたままだ。







「どうした、こんな遅くに?」







突然の訪問。



これが昼間ならお茶の一つでも出すのだが。



ロイは書類に目を通すふりをしながら横目でエドワードを見る。



用がないのなら帰れ。



そういう意味合いを含めて。







「…手に入れたんだ…賢者の石…」







握りしめていたエドワードの右手が開かれ、コートのポケットから何かを掴んでもう一度手を開いた。



掌には、光を受けて赤く輝く一欠けの石があった。



賢者の石。



ロイはその石を良く知っている。



東部内乱の際に自分も使用した一品。



もっとも、ロイが使ったのは試作品にすぎなかったが。



何も知らない頃だったら、自分も欲しただろうその石は、今となっては恐怖の対象でしかない。



いかに魅力的に輝いていようともそれに触れようとも思わない。



だが、エドワードたち兄弟が元の体に戻るためには必要なものなのだ。







「それは良かったな」







ロイは心から笑みを浮かべた。



考えてみれば、エドワードに対して本当の笑顔を見せたのは今まで一度もなかったかもしれない。



だが、書類で少し隠れていたそれは俯いたままのエドワードには見えていないようだった。







「…明日にでも、これを使おうと思ってるんだ」







明日…12時を過ぎた今では「今日」という意味合いだろう。



元の体に戻る前という大事な時間にここに来るとはどういうことなのか。







「そうか」







疑問には思ったが、尋ねるようなことではない。



ロイはいつものようにサラリと受け流すと最後の書類を手にとった。







「コレ、返すよ」







ロイが書類に目を落とす前に、エドワードはそう言ってズボンのポケットに手を突っ込んだ。



金属製の鎖がチャラッという音をたてる。



賢者の石のかわりに引き出されたのは国家錬金術師の証である銀時計だった。







「?」







いきなりのことにロイは眉を顰めたが、



エドワードは気にせず、鎖を握りしめた拳をロイの目の前に突きつけた。



銀時計が揺れ、光を反射して室内に動く一つの楕円の輪を作る。







「もう軍に戻るつもりはない」







先ほどまでは見えなかったエドワードの顔は、



ロイを見据えた今でははっきりと月明かりに浮かんでいる。



憂いと哀しみを帯びた瞳は、それでも大きな決意を湛えていた。



自分にこの意思を変えられるわけはない。



変えられないのならば、彼をこの鎖の重みからできるだけ早く解放してあげよう。



ロイは書類を机の上に置くと突き出したエドワードの手の下に手を広げた。



しばらくエドワードに動きはなく、鎖が彼の手から離れることはなかったが、



やがてゆっくりと手を開くと時計を手放した。







「軍としては無くすには惜しい人材だがな」







ロイは時計を掴み、エドワードを見上げた。



しかし、再び俯いてしまった彼と目が合うことはなかった。



エドワードは伸ばした手をだらりと下げると、握りしめたのか手袋がぎゅっと鳴った。







「あんたは…どうなんだよ…」







全身が小刻みに震え、声はかすれながら紡がれる。



その様子のおかしさに、ロイは手にしていた時計を机の上に置き、椅子から立ち上がった。







「鋼の?」







覗き込むように、エドワードの横に立つ。



そのとき、不意に顔を上げたエドワードは、ロイを押し伏せた。



倒されたロイの背中が悲鳴をあげる。



エドワードはそのまま馬乗りになる形で上にまたがった。



一瞬、息の詰まったロイは少し咳払いをすると、床にぶつけた頭を手で押さえた。



頭の芯がぼーっとする。



顔を顰めていると、何か冷たいものがロイの顔の上に落ちてきた。



はっと目を開いたその先で、エドワードは泣いていた。







「あんたはどうなんだ!? 俺がいなくなったら、あんたはどう思う!?」







悲痛な声。



涙に濡れた瞳は一直線にロイを見つめている。



そんなエドワードにかける言葉も見つからず、



ロイは痛む後頭部をただ押さえることしか出来なかった。







「…怖いんだ。元に戻れるか…この世から消えるんじゃないかって…そう考えたら…」







体同様に声も震え、弱々しく告げるエドワード。



彼のこんな顔を見たのはいつ振りだろう。



前に綴命の錬金術師のキメラ事件の際も同じような表情をしていた。



あのとき、言った言葉とは裏腹に、この先二度と泣かせまいと心に決めていたのに。







「…鋼の」







ロイは顔を曇らせ、エドワードに手を伸ばそうと持ち上げたが、その手は彼に触れることはなかった。



自分の意気地なさに呆れた。



伸ばせば触れられる近さ。



それがこんなにも重苦しいものだとは想像してもみなかった。



今まで遠く接してきたのが仇になったかもしれんな、とロイは心の中でため息をついた。







「…なあ、もし死んでもあんたのところに戻れるように…俺に、俺が生きてたって証、刻んでくれよ」







あまりにも突飛なエドワードの言葉にロイは一瞬驚き、目を見開いた。







「頼む…」







願い事などしたことのないエドワードが頭を垂れ、乞う。



眼前で俯いた彼にロイは淡く微笑むと、彼の前髪を手でかきあげた。



そして、そのまま頭を掴むように自分の方へ引き寄せると露わになった額に口付けた。







「続きは無事に戻ってきてからだ」







手を離しながらロイはにっと笑う。



困ったように寄せた眉はこれ以上のことを拒否しているように見えた。







「あ…」







それがわかったのか、エドワードは立ち上がり、よろよろと数歩退いて、その場に座り込んだ。



ロイに向けられていた視線が宙を泳ぐ。



やっと身を起こしたロイはそんなエドワードを見て、苦々しく笑った。



そして、背中についたほこりを払うと胸ポケットに入れられているものを引き出した。







「これを持って行きたまえ」







ロイの言葉で、彼に視線をあわせたエドワードは急に投げられたかたまりを両手で受け取った。



月明かりを受けて鈍く輝く金属のかたまり。



エドワードのもの以上に傷のついたそれは、ロイの経歴を表している。







「これって…あんたの銀時計じゃ…!」







受け取ったときのままの格好でエドワードは顔をあげた。



その衝撃で鎖がちゃらっと音を立てた。







「そうだな」







ロイは何事もなかったような涼しい顔で締まった首元を緩める。



自然な動作には見えたが、彼の目はエドワードを見ないかのごとく閉じられていた。







「そうだなって、これじゃあ俺が返した意味ないだろ!?」







食って掛かるエドワードにやっと目を開いたロイは低く笑った。







「意味が分かってないな、鋼の。私は君に、それを持ってもう一度顔を見せにおいでと言っているんだ」







立ち上がり、ズボンのほこりをも落とすと見下ろすようにエドワードを見る。



目にはからかいの色が浮かんでいた。







「…バカ大佐…」







もう一度なんてあるかわからないのに。



エドワードの心の声は手にとるようにわかった。



けれど、ここで素直になれるような性格をロイは持ち合わせていない。



今までずっとこうしてきたからこそ、今となっては譲れないのだ。







「来るときはアルフォンスも一緒にな」







呆れられようともかまわない。



今ここで彼がこの場から退いてくれるのならば嫌われるのもいとわない。



それくらいの覚悟で、ロイはいつものように皮肉めいた言葉を投げかける。



予想通り、エドワードは気を悪くしたらしく、ロイの銀時計を握り締めると立ち上がり、ロイに背を向けた。







「…行ってくるっ!」



「あぁ」







一度顔をあげてからそう言うとエドワードは床をけり、司令室を飛び出していった。



その後姿にロイは小さく「行って来い」と呟く。



風を切ったエドワードにその声は届かなかったが、ロイは満足そうに目を細めるとゆっくりと自分の席を振り返った。



そして、椅子に座り、エドワードが置いていった銀時計を手にとる。



不器用だな。



エドワードも、そして自分自身も。



逆行になった光の中で、ロイはくすっと笑った。



手元に残ったエドワードの銀時計は、その存在を誇示するかのようにロイの手にその重さを伝えている。



蓋に描かれた大総統紋をいとおしく指でなぞってから、ロイはそれを机の引出しにしまった。



そして、もう一度閉められた扉を見てから、最後の書類にペンを走らせた。
# by sasyasya2007 | 2007-01-11 00:41 | 頂き物
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